プロ格闘家の減量ってなにしてるの?一般人にも応用できないか聞いてみた

「中性脂肪にコレステロール」

男性が歳を重ねるにつれて、仲良くなってしまいがちな二人のお友達ですが、そんなお友達と無縁で過ごしているスポーツマン。
特に、自分の身体を武器に闘う格闘家ならばなおのことです。

試合前に格闘家は目指す階級にでるべく、練習をし、食事を控え、自分を追い込み減量を行います。
もし仮に階級規定の体重まで絞りきれず、1gでもオーバーしていた場合、その試合に出ることさえできないこともある過酷な世界。

そこで、先日健康診断に見事引っかかり齢29にしてメタボ予備軍になってしまった私、浜松一郎は思いました。

格闘家の減量を真似すれば、スリムなボディになり悪しき二人のお友達ともおさらばできるのではないか…」と。

というわけで今回、先日開催されたパンクラス290に出場し見事勝利。ライト級ランキング3位まで上昇したプロ格闘家兼パーソナルトレーナーの井上雄策さんに試合前の減量方法とそれを一般人のダイエットにも生かせないかお聞きしました!


井上雄策
1988年12月30日生
プロ総合格闘家
日本体育施設協会認定トレーニング指導士
日本ウェルネススポーツ専門学校専攻科卒業後フィットネスクラブにて勤務をしつつ、パーソナルトレーナー、格闘家として活動。
パンクラス ライト級3位
2010年 修斗ミドル級新人王
格闘技戦績は15戦13勝2敗。
Twitter:

そのままの体重で出ればよくない…?なんで減量をするの?

計量の時のひとコマ

− そもそも論で恐縮ですが、格闘家の人ってなんで「減量」をするんですか?例えば今の体重が70kgならば、そのままにして筋肉だけ鍛えたりして無理に体重を落とさなくてもいいのでは…?と思ってしまうのですが…!

「ハハハ!そう言われると思ってましたよ!格闘家が減量を行う理由はいくつかありますが、個人的な主観も含めて3つお話します」

− お願いします!

「1つめの理由として『スイッチを入れる』という効果です。減量において、食事の制限を始めると、ヤル気が出たり、練習に集中できるようになったり、精神的に鋭さが出ます。個人的な意見ですが、ハングリー精神という言葉があるように、空腹は活力を生むんです。糖が枯渇した事によって(肝臓から糖を作る時に)分泌されたアドレナリにも理由があると考えられます。つまり、減量を行うことが、身体的にも精神的にも試合に臨むスイッチとなるのです!」

− なるほど…!!

「そして2つめは『試合時に体格差をつける』ためです。計量は試合の約24時間〜30時間前に行います。つまり、計量をパスすると試合まで数十時間の猶予ができるんです!その間に食事などにより『リカバリー』を行います。人間は凄い生き物で、減量を行ったことで、枯渇した体内は、元のキャパシティ以上のエネルギーを蓄えるようになり、当日にはエネルギーが以前より満ちた状態で試合に臨めるんですよ

− え!そうなんですか!?

「そうなんです!すなわち、減量を行なった人間と、一切減量を行わなかった人間とでは、試合当日に体重、体格に大きな差が生まれます。僕は試合当日に7kg〜8kg程リカバリー(増やす)をしますが、コンタクトスポーツにとって体重差は非常に大きなアドバンテージとなります。格闘家にとって、計量後から試合前に行うリカバリーも勝敗を分ける大きなポイントとなるんです」

− そんなに増やすんですか!すげぇ!!

「そして3つめは『試合への意識を紛らわせる』ためですね。格闘技の試合に臨む事は大きなストレスやプレッシャーを伴います。敗北や怪我への不安、恐怖心。勝敗がその先の人生に関わる事もあるからです。常に頭の片隅に試合への思いが付きまとい、不眠や鬱の症状が出る人もいます。だからこそ、減量を行い、体重管理へ意識を向かわせる事で、試合以前にクリアしなくてはならない計量へ意識が逸れ、試合への無駄な恐怖心を紛らわせる事ができるんです!」

− 確かに、格闘技は勝ち負けで人生を左右しますもんね。精神的な面と身体的な面も含めて減量を行うのか…!勉強になる。

実際はどうやってやるの?!過酷な減量生活

過酷なトレーニング中

− では、具体的にどんな感じで減量を行うのでしょうか?

「先日の試合を例にすると、僕は元々85キロで、70.3キロ級ででたので、約15数キロ落としました。つまり、計量6週間前から減量を開始して、15キロのダイエットをするんです

− 1ヶ月ちょいで15キロか…それはやばいですね。

「まず、6週間前から、食事のバランスをみつつ一日の総摂取カロリーを2000kcalから2300kcal程度に抑えます。基本的には脂肪を落とすイメージですね。この段階では、炭水化物は抜かないし水分も抜きません。一方で、運動量はピークにします。毎日、朝5km走って800mダッシュなどをします。この距離や時間は出場する試合のラウンド数に応じてって感じですね。そして、夜にミット打ちやスパーリングなどの練習をします。試合2週間前までの1カ月はこの生活をひたすら繰り返すんです」

− ほほう。摂取カロリーを抑えつつ運動をしてカロリーを消費することで痩せるんですね。
※摂取カロリーと消費カロリーについては、前回井上さんに聞いた「脱!ビール腹」いい体になる食生活と筋トレ法を、プロ格闘家兼トレーナーに聞いてみたをご覧下さい。

「そして、計量の2週間前から摂取カロリーを1500kcalから1800kcal程度に抑えていきます。この時、風邪をひいたような身体のダルさとイライラ、集中力がなくなったりするんですが、運動量もピークを継続するんです。結構キツイ時期ですね…。そのため、ここからは完全休養日を作るなどはします」

− 計量1週間前にもなっていないのにかなり追い込むんですな。

「そうですね。そしてほとんどの選手は計量の1週間前から運動量は若干少なくしますが、僕は計量前日までかなり強度の高い運動を行います。そして炭水化物抜きを計量3日前から始めます。僕は炭水化物を一日20g程度にして、塩分も控えます。この時期に入ると食欲も減るので炭水化物のない食事を摂ることすら億劫になってきます…」

− メタボ予備群の僕からすると、食事が億劫っていう感覚が全くわかりませんが、極限にまでなるとそうなるもんなんですね…!!

「そして、計量一日前から水抜きをします!最後の三キロくらいは汗をかいて落とす感じですね。サウナや半身浴をし、体から水分を出しつくします」

− いよいよ地獄の入り口を覗きに行くんですか…?

「これで計量までの減量は終了です。思い出すだけでもなかなかキツイですよ…」

− 格闘家ってここまでやるんですね…しかも試合前に…。

一般人は「朝運動すべし」

− でいよいよい計量をパスした後ですがその後はどうするんですか?

「計量終了後は、試合開始までの約30時間でGI値(食品に含まれる糖質の吸収スピードを示した数値)が高い食品を多く摂取します。例えば米、砂糖、餅、ハチミツ、あんこなどですね!あとは、ナトリウムの過度な摂取は控えます」

− ナトリウムを控える?なんでですか?

「ナトリウムを多く摂取すると、体内のナトリウム濃度を薄めようとして、水分を体に蓄えようとする反応が起こり、体重の増加に繋がります。コンタクトスポーツにおいて体重差が優位に働くことはありますが、やみくもに体重を増やせば良い訳ではありません。皮膚に水分を含んで体重が増えた場合は、重りを背負って戦うのと同じことです。動きも悪くなりますし、だるさも出るので、リカバリー時は『浮腫み』が起こらないように気をつけていますね!」

− 試合前の準備がマジで大変なんですね。正直、すごすぎてなかなか一般人が真似するのは難しいかと思いますがこの減量においてなにか転用できるものはありませんかね?

「やっぱりカロリー制限ですかね。基本的に消費カロリーが摂取カロリーを上回っていると人間がある程度までダイエット可能です。だからこそ、きちんと口の中にいれる食べ物のカロリー制限はしつつ、摂取量が基礎代謝を下回らないように気をつける。あとは『朝の運動』がオススメです」

− なんで朝なんですか?

「人間は寝ている間にもカロリーを消費するんですね。なので、前日の食事から数時間経過したことで、血液中の糖や、筋肉中のグリコーゲンが少なくなっているため、朝起きてすぐの運動は体内に蓄積された脂肪をエネルギーとして使い易くなっているんです。ただ、何も口に入れずにエクササイズを行うのは危険も伴いますので、僕の場合はBCAAなどのアミノ酸を飲んでから走るようにしています。アミノ酸は筋肉の分解の抑制や、脂肪燃焼を高める効果も期待でるので!」

− そうなんですか!!これはいいこと聞きましたね!近ごろ、朝活とか流行っていて「なぜ朝…?」と思っていたのですが、そんな理由があったとは。

「朝の運動はマジでオススメします。あとは結婚式前や緊急事態のため用ですが、『2日前炭水化物抜く』と非常に身体が締まります。まぁいずれ戻ってしまうので本当に直近の予定用ですかね。加えて、塩分も抜けば、目の周りもシュッとしますよ!」

− 勉強になります。僕も健康診断の前に炭水化物を抜こう…。

「それは最後の手ですよ!理解してもらいたいのは、格闘家にとってはリカバリーでもダイエッターにとってはリバウンド。『急激な体重の変化』や、『極度の食事制限』は、体調を崩しますので絶対に真似をしないで下さいね!

− わかりました…!!本日はありがとうございました!